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【LORC】包摂的発展研究ユニットの研究会が開催されました

2024.03.13

 包摂的発展研究ユニットでは、日本政策投資銀行の吉田博彦氏をお招きし、「サステナビリティの潮流と経営」のテーマでご発表いただきました。

日時:2024年 3月4日(月)16:00-
場所:龍谷大学深草キャンパス和顔館4階会議室2
講師:吉田博彦(日本政策投資銀行人事部)

 日本政策投資銀行(以下DBJ)は、1951年に戦後の日本経済・社会復興を目的とした前身の日本開発銀行が誕生し、1999年に設立されました。現在ではICカード「PASMO」の開発をはじめとする金融ソリューションによる価値創造、東日本大震災による危機対応における間接金融などのスタビライザー機能の役割を果たしています。
 本研究会では、自身のインパクト投資のガイドラインづくりの経験やDBJでの取り組みを背景に、サステナビリティとは何か、現今の気候変動対策やそのあり方の一端を探る話題提供をいただきました。

発表の目次とその概要
①サステナテーマとマテリアリティについて:
 DBJでは、事業収益と社会的インパクトを両立するために、脱炭素・新事業創出・人口減少という課題(すなわち「マテリアリティ」)に取り組んでいることが共有されました。

②カーボンニュートラルに関する潮流:
 カーボンニュートラルは、温室効果ガスの全体的な排出量をゼロにすることを指す概念ですが、その実現に向けてはCO2の削減とともに、C02の「吸収・除去」する方策も重要です。日本では菅政権時代の2020年10月に、2050年までの脱炭素社会を目指すことが宣言されました。
 気候変動に対する世界的な合意としては、2015年のパリ協定で定められた「地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑えること」がありますが、例えばアメリカでは、これに対する反発が強まっており、揺り戻しがあると言います。その重要な議論に際して「ジャスト・トランジション(=Just Transition)」という考え方があります。

③トランジション:
 脱炭素社会の実現は緊急の課題ですが、一方でその対応による企業の財務上のリスクや、化石燃料産業に従事する労働者の雇用が失われる懸念などがあります。そうしたリスクを踏まえ、関係産業が立地する地域や従事者が取り残されることなく、公正に移行すること(ジャスト・トランジション)が重要です。

④水素・アンモニア:
 産業のエネルギー転換には水素やアンモニアが注目されていますが、その供給は技術的に可能だとする一方で、港湾・臨海部への運輸のために受け入れ環境の整備が不可欠です。そうした水素社会への移行は、都市のあり方が大きく変容する可能性があり、地域に応じた対応検討のための基礎情報の整理が必要です。

⑤生物多様性:
 健全な生態系の保全に向けて、2030年までに陸域、海域の30%を保護区域とする「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」が重要な概念になっています。

⑥企業情報の開示:
 近年、企業におけるESGなどを含む非財務情報の開示の重要性がますます高まっており、そうした背景からISBB(International Sustainable Business Bureau)が設立されましたが、その重要な開示テーマには気候変動、生物多様性、そして人権が挙げられています。企業の情報開示によるデータセットを豊富化していくことで、金融機関の投資を決める判断材料となり、外部不経済を克服していく動きが活発化しています。

 発表後の質疑応答では、ジャストトランジションのあり方について特に議論されました。「公正な移行」を実現するために、始めに影響が出るのは地方都市における地域社会だといいます。地域社会は、産業構造の転換後の新しい将来像を描く局面に立っていることが共有されました。