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【LORC】包摂的発展研究ユニットの研究会が開催されました

2023.09.27

 包摂的発展研究ユニットでは、文化人類学の領域から欧州におけるオーバーツーリズムを研究されているClaudio Milano氏をお呼びし、研究会を開催しました。

講演者:Claudio Milano(バルセロナ大学)
講演名:Addressing the Tourism Excesses Debate. A social movement perspective.
日時:2023年9月19日(火)15:00-17:00
場所:龍谷大学深草キャンパス和顔館4階会議室2

 観光地が観光地として成立するには、Location(=ただの場所)からDestination(=観光するための目的地)への転換が必要です。そうした観光地化に向けて、海外の諸都市ではシティ・プロモーションがさかんに行われてきました。例えばシティ・プロモーションの先駆けであるニューヨークにおける「I♡NY」、アムステルダムの「I amsterdam」などの標語は、都市プロモーションの促進とともに、市民のシビック・プライドを醸成してきました。
 観光のグローバル化が一層進んだ背景には、「移動」のパラダイム転換があったと言います。「デジタルノマディズム」と呼ばれる、世界中のどこからでも仕事ができる環境が構築されたことにより、近年ますます住民と観光客の境界は曖昧になっており、こうした社会状況の変化もまた、オーバーツーリズム発生の下地となっています。

 バルセロナやヴェネツィアなど世界的な観光都市では、観光客の増加により、オーバーツーリズムが問題化しました。特にオーバーツーリズムが顕著化したバルセロナでは、住宅の壁に観光客を「Tsunami」と形容したポスターや、「Tourisut Go Home」と書かれたセンセーショナルなフラッグが掲げられ、住民レベルでの反対運動に発展しました。
 行き過ぎた観光地化は、住宅価格の上昇、商業的ジェントリフィケーション(地区の商業的な高級化)、住民の購買力低下、さらに雇用の外部化とともに観光関連事業で働く労働者の搾取問題などを引き起こし、地元住民が持続的に居住できない状況をつくっています。Milano氏は、観光客が訪問地に過度に流入することによる、観光資源や住民の居住環境劣化のデッドラインを示す「キャリング・キャパシティ」の考え方が重要であると言います。

 そうした状況への対処に向けて、2015年に立ち上げられたバルセロナの連合自治組織「ABTS=(Assembly of Neighbourhoods for Sustainable Tourism)」は、その呼称から分かるように、観光客と住民が共存するための「持続的な観光」を目指す必要性を訴えてきましたが、2019年に「ABDT(=Assembly of Neighborhoods for Tourism Degrowth)」へ呼称を変更し、すなわち観光産業を抑制する脱成長論的な観光への転換を提唱しています。さらに、南ヨーロッパ14都市が連携し、観光産業の脱成長を目指す「SET Netwok(=Network of Southern European Cities against Touristification)」の組織化にも見られるように、バルセロナでは近年、オーバーツーリズムの克服に向けて、観光部門の規制強化に基づく観光産業の脱成長戦略へ発展していることが共有されました。

講演のようす